






このホームページをご覧になられているのは、自然に妊娠されずお困りの方や他の病院で治療を受けられているのにも関わらずなかなか結果が出ない患者さんだと考えます。学会による指針の作成やインターネットなどの普及により医療内容は標準化(どの医療者も行うことがいっしょになること)されてきていますが、行われている治療内容が病院間で若干異なっているのも事実です。それは、治療に力を入れている病気の種類、その病院独自の研究内容、病院が有している医療機器装置、医療体制などが病院により異なるためだと考えられます。ここでは滋賀医科大学女性診療科生殖医療チームの行っている診療の特徴、診療の流れ、特に取り組んでいる課題等を紹介します。我々の行っている診療が、困っておられる患者さんのお役にたてばよいと考えています。
滋賀医大産婦人科で生殖医療部門には、現在4名の医師(両教授を含めると6名)、3名の胚培養士が属しています。4名の医師が生殖医療に直接従事している国立大学病院はほとんどありません。治療が難しい患者さんは、みんなで相談し対策を考えています。「3人よれば文殊の知恵」ではないですが、1人より2人、2人より3人とより多くの医師、スタッフの方が、よりよい方法が考えられると思います。
また、担当の先生と異なる先生の日を受診してもらって意見をしてもらうのも自由としています。名医と言われる先生でも患者さんとの相性はあるものです。他の先生の意見は、カルテに記載され、患者さんの治療に反映されます。すなわち、同じ病院にいながら複数名の医師の意見を聞くことができるのも当院の強みです。最も大切なことは患者さんに妊娠していただくことです。スタッフ間は連携、連帯していますので無用なご遠慮はなされませんようにお願いいたします。
子宮筋腫、子宮内膜症、卵管周囲癒着などは、不妊症の原因となり手術療法が有効な場合があります。
また、体外受精、顕微授精は万能ではありません。子宮筋腫、子宮内膜症、卵管水腫などは、体外受精においても着床障害の原因となり体外受精をおこなっても妊娠率が極端に低下することがあります。これらの病気を主に体に負担の少ない腹腔鏡や子宮鏡を用い治療しています。体外受精を2度3度とおこなっても妊娠されない場合は、もう一回違う角度で不妊原因、治療を考え直すべきだと考えます。
世界中の医療者が、患者さんに妊娠していただくために新しい薬、技術、方法を開発しています。それらを日々習得するよう勤め、それを実践しています。各個人でも努力していますが、生殖医療チームが独自のカンファレンスを行い、項目を決め知識をみんなでブラッシュアップしています。最新の医療をお届けできるよう努力しています。
男性側の原因で不妊となられているカップルが多いのが現実です。
状況に応じては、当院の泌尿器科医と共同して診療を行なっています。
難治症例には、滋賀医大が取り組んでいる卵巣刺激プロトコールや移植プロトコールで治療を行なっています。これらの成果もあり診療成績が下記のように向上してきていると考えています。
来院された患者さんには検査を受けていただき、妊娠していただくために良好な状態かどうかを調べます。奥様、ご主人さまの両方を調べさせていただきます。奥様に対し基礎体温計測、超音波検査、子宮卵管造影、各種ホルモン、抗精子抗体、クラミジア抗体などの検査とご主人に対して精液検査などを行います。
奥様に対してMRIなどの画像診断、子宮鏡検査、腹腔鏡検査などを行うこともあります。
ご主人が重症であった場合には、当院の泌尿器科の専門医医師を受診していただきます。
異常が見つかればすぐにその治療を行うのが普通と思われるかも知れませんが、不妊診療においては必ずしもそうとは限りません。赤ちゃんを妊娠してもらうためには見つけられた異常や病気の種類、部位、重症度により行う治療内容が異なります。例えば子宮筋腫が、着床を障害すると考えられる場合には、手術等を考えますが、小さな子宮筋腫が外側に向かって発育している場合などは、様子観察し子宮筋腫の切除を行わないこともあります。また、軽症の子宮内膜症や卵管に異常が見つかった場合などには、排卵誘発と人工授精を組み合わせた治療をまず行うことが多いです。このように異常や病気が見つかったからと言って必ずそのもの自体を治療する薬物療法や手術療法を受ける必要はありませんが、お勧めする場合もあり得ます。要はお一人お一人に応じて、その状態、部位、重症度などを考慮し妊娠するために近道する方法を考える必要があります。また、ここで重要になってくるのは、患者さんの年齢と今まで受けられた治療内容です。これらを十分に考慮に入れ治療方法を組み立てることが非常に重要です。
一般検査で異常が見つからない場合もありますが、その場合は、原因不明不妊という範疇に入ります。そのような場合には、タイミングあわせ、排卵誘発、黄体補充、人工授精など体の負担が少ない治療をまず行います。
このような治療を受けられても妊娠されない場合には、腹腔鏡検査により子宮内膜症や卵管の異常の検索と同時に治療を行うか、体外受精胚移植へと治療をステップアップさせます。ただし、高年齢や卵巣予備能が少ない患者さんは治療のステップを早めます。
高齢の場合や卵巣機能予備能が低下している場合には、体外受精を行っても良好な結果を得にくいのは事実です。このような患者さんに対して当院では卵巣機能改善および卵質改善に取り組んでいます。試みている卵巣刺激法もあります。
また、子宮内膜症の患者さんは、卵質が低下するとの報告がありますが、従来の卵巣刺激プロトコール法で妊娠されない場合には、当科が取り組んでいるプロトコールをご紹介させていただいています。
移植してもなかなか着床しない場合があります。子宮内膜の組織検査を行っている病院は少ないですが、滋賀医科大学では子宮内膜を採取し大学内でおこなっている検査があります。この結果も考慮して移植プロトコールを考えています。
無精子症や高度乏精子症に対して泌尿器科と共同し精巣内精子採取を行なっています。また、企業と共同して乏精子症の改善に取り組んでいます。
①卵巣予備能低下者に対する卵胞発育高年齢者および卵巣予備能低下者の卵質改善
②子宮内膜症患者および着床障害患者に対する子宮内膜検査および着床能改善方法
③乏精子症の治療
おかげさまで2013年(1月から12月)は過去最高の妊娠数となりました(図1)。上半期72名、下半期82名とほぼ同数の患者さんに妊娠していただいています。
図2に示しますように2013年は前年より採卵件数が減少しましたが、図3のように体外受精による妊娠数は歴代最高数と同数となりました。大学病院であり40歳以上の患者さんや難治性の患者さんが多い状況ですが、卵巣刺激方法や胚移植方法の工夫、胚培養技術のさらなる安定化などにより治療成績が上がったものと考えています。図4にお示ししますように凍結融解胚盤胞移植を例にとりますと移植あたりの妊娠率は徐々に上昇し大変良好となっています。プロトコールを少しずつ改善し2013年末よりほぼ移植あたりの妊娠率は55%前後で安定した状態で推移しております。生殖医療に関わるスタッフの日々の精進と努力による結果だと考えています。
図1. 妊娠数の推移
図2.採卵件数の推移
図3.体外受精胚移植における妊娠数の推移
図4.凍結融解胚盤胞移植における移植あたりの妊娠率の推移
学会活動とタイトルをつけず、あえて医学の発展のための学会活動とタイトルしています。学会は医学の発展のため、患者さんのよりよい治療を行うためにあります。我々も医学の発展のため学会活動をおこなっています。我々が行った学会での発表は数多くありますが、ここでは全国規模以上の学会でシンポジウム(その領域のエキスパート医師が、学会に属する医師の前で発表し協議し医療レベルを発展させるもの)と教育講演・特別講演(その領域のエキスパート医師が、学会に属する医師に対して行う指導的な医療レベル向上のため講演)を努めた内容を紹介します。これらの発表は、その病院や個人が学会に依頼され行うものです。日々の努力を医学会が認めてくれたものと考えております。
①村上 節
セミナー 子宮内膜症性不妊への対処 update
第31回日本エンドメトリオーシス学会 1月17日 京都
エンドメトリオーシスとは子宮内膜症のことです。子宮内膜症の治療のために日本エンドメトリオーシス学会という会があります。子宮内膜症に関連する不妊につき講演しています。
②村上 節
セミナー 子宮内膜症の病態と治療 update
– 子宮内膜症取り扱い規約第2版を踏まえて-
第28回日本受精着床学会総会・学術講演会 7月28日 横浜
日本受精着床学会は、日本での体外受精を発展させるために創設された学会です。村上先生は、子宮内膜症の治療のバイブルとも言える「子宮内膜症取り扱い規約」の作成委員です。日本の子宮内膜症の診断・治療に関して指導的な立場です。
③清水良彦
ワークショップ テーマ 生殖医療における内視鏡手術の現状と展望
発表内容「卵管病変に対する内視鏡手術」
第55回日本生殖医学会総会・学術講演会 11月11-12日 徳島
日本生殖医療学会は、不妊治療を発展させのために創設された学会です。卵管性不妊は、不妊原因として非常に多く認めます。子宮鏡を用いた新しい治療方法を提示されています。従来の卵管治療よりより簡便で安全な方法です。
①村上 節
シンポジウム PCOSの卵胞発育とDrillingの意義
第29回 日本受精着床学会学術講演会 9月9-10日 東京
PCOSとは多嚢胞性卵巣症候群のことです。多嚢胞性卵巣症候群の発生のメカニズムと治療方法につき講演しています。難治性の多嚢胞性卵巣症候群に対して腹腔鏡下治療についても詳しく述べています。
①村上 節
Overview 子宮筋腫 -妊孕性と妊娠に対する影響-
第3回婦人科ホルモン依存性疾患研究会 5月26日 東京
子宮筋腫も不妊症の原因となります。薬物療法と手術療法がありますが、患者さんに適した治療内容の選択方法や特に手術方法につき講演しています。
③高橋健太郎
シンポジウム 妊娠年齢の高齢化による妊孕低下に対して東洋医学治療はどこまで有用か 不妊症に対する漢方薬の歴史
第63回 日本東洋医学会学術総会 6月30日 京都
高橋先生は、日本東洋医学会学の専門医であり、漢方療法に深い造詣があります。不妊症の患者さんに対する漢方療法の歴史から現在行われている診療につき講演しています。
②Fuminori Kimura
Special lecture Conservative Surgical Treatment of Infertile Patients with Adenomyosis
The 4th Symposium of Advanced Reproductive Medicine 11月18日 ソウル
韓国の学会から依頼を受け講演しています。滋賀医大で開発した世界初の治療法など妊娠する力を残すための子宮腺筋症の薬物療法や手術療法について講演しています。この内容の一部は、2007年のアメリカ生殖医学会誌(Kimura F. et al. Fertil Steril. 2007)に掲載されています。
①村上 節
特別講演 子宮内膜症のNBM(Narrative Based Medicine)を考える
第13回産婦人科内分泌研究会 7月13日 名古屋
子宮内膜症の診断、治療につき講演されています。全国学会での発表を始め各都道府県の研究会で多くの発表を行なっています。
②高島明子、村上節
シンポジウム テーマ 妊症および不妊に関連する疾患の内視鏡手術
発表内容「粘着下子宮筋腫の子宮鏡手術」
第31回日本受精着床学会総会・学術講演会 8月8-9日 大分
内視鏡手術の中でも粘膜下子宮筋腫に対しては、子宮鏡下手術がよく行われます。粘膜下子宮筋腫は、不妊の原因となりますが、それらに対する子宮鏡下手術の有効性につき講演しています。
③木村文則、竹林明枝、平田貴美子、高島明子、清水良彦、高橋健太郎、村上節
シンポジウム テーマ 子宮内膜症:不妊への連鎖を紐解く
発表内容 「子宮内膜症における慢性子宮内膜炎の意義」
第31回日本受精着床学会総会・学術講演会 8月8-9日 大分
子宮内膜症の不妊の原因として卵質の低下が原因と結論づけるような報告がありますが、後にその報告内容の抱える問題点も指摘され子宮内膜症は着床能へも悪影響があると考えられます。子宮内膜症と慢性子宮内膜炎との関連性、着床障害およびその解決方法につき講演しました。
④村上節
セミナー 子宮内膜症不妊症のマネージメントを考える
第58回日本生殖医学会学術講演会・総会 11月15-16日 神戸
子宮内膜症不妊の診断と治療につき、包括的な内容で講演しています。
①木村文則
教育講演 排卵誘発法
第66回日本産科婦人科学会学術講演会 4月18-20日 東京
日本の産婦人科の学会で最も大きな会です。不妊診療の基本とも言うべき排卵誘発ですが、より効率的にまたより安全に行うための方法を講演しています。
新しい発見や治療方法の開発が多くの患者さんを救います。また、ひとつの治療方法の有効性を紹介するのも患者さんの治療を選択する上で参考になります。このようなことから我々の行っている研究や診療内容を多くの医学誌に報告し、他の医療機関でもお役に立ててもらうようにしています。ここでは生殖医学に関わる英文誌になったもののみを紹介します。
我々医療者にとって最も大切なことは、病気を治して患者さんに妊娠出産していただこうとする情熱だと考えています。我々生殖医療チーム全員が、強い情熱を持って診療を行っています。我々の技術や治療法が、お困りの患者さんのお役にたてばよいと考えおります。