教室員の風景

2012年1月

こんにちは、オックスフォードに在住の山本依志子と申します。2年前まで滋賀医大産婦人科に勤務しておりました。村上教授のご好意で、現在この地に滞在しております。

 イギリスは日本より少ない人口でほとんど平地の島に人々が住んでいる国です。イギリスに対して日本人が持っているイメージはほぼ間違っていないと思っていただいてもよいのではないでしょうか。地震がないので、レンガ建ての家がたちならび、カントリーサイドの村々にはかわいい石造りで素敵な庭を持つ家が集まっています。日本ではコッツウォルズとか有名ですが、有名でなくても同じような村々はそこかしこにあります。昔からの街並を大事にしているので、近代的な建物はどちらかというと不評をかうようです。
 土地がいっぱいあるので、自然もいっぱいです。ウォーキングが好きなイギリス人だけあって、テムズ川のほとり、遊牧地の中、と、フットパスと呼ばれる散歩道が至る所にあります。オックスフォードの街の少しはずれには、ポートメドウと呼ばれる、ほぼ公共の遊牧地があります。雨が増える秋から冬にかけてはメドウの中を流れるテムズ川から水が流れ込み、芝生の上に大きな池ができます。冬の冷え込みが厳しくなる頃には、池が凍り、天然のアイスリンクになります(写真参照)。まるで小さい頃に読んだ、ヨーロッパの絵本のような風景が広がり、私のお気に入りの場所になっています。
 でもイギリスには大規模な自然災害というのはほとんど起こらないので、自然を畏怖してあるがままにおいておく、という感じではなく、自然は人間がコントロールするもので、人に良いようにおいておく、という感覚で残しておかれているように思います。

 かく言うイギリスも、今の世界的な不況の波をもろにかぶっていて、思い切った歳出削減を基にした財政改革が行われています。こちらの政策はやると言えば、途中で骨抜きになったりせずに本当に実施されるので、医療費も削減されて大変そうです。
 イギリスの医療はNHSという国営医療サービスと、プライベートの私費診療に分かれています。NHSではGPと呼ばれる家庭医に登録して、風邪ひいたとか怪我をしたとかほとんど問診だけで一般の診療は終わり、全部無料です。薬の処方箋は出されますが、16歳以下の子どもはお薬も無料です。一度、子どもがぜんそく発作を起こして救急にかかった時には、日本と同じような感じで診てくれました。
 でも大きな病気をするとちょっと大変なようです。NHSの病院は主治医がつかないので、検査の予約、治療方針の決定などなどが総じてすんなりと進みません。専門医にあたるコンサルタントの先生に会うのも時間がかかりますので、NHSでは何事も待たされることを覚悟でかからないといけません。日本の入院と同じような感じで医療を受けようと思うと、プライベートで、一日入院しているのに7万円くらい払わないといけないようです。普段から私費用の医療保険に入れる人でないと、プライベートの医療にかかるのは難しいです。
 そう思うと、日本の健康保険制度はそんなに高くない自己負担で、手厚く質の高い医療が受けられる、いい制度だと思います。妊婦健診も妊娠期間中を通して超音波で赤ちゃんが見られるのも2回か3回くらいなので、コストパフォーマンスの問題はついてまわるとはいえ、日本の妊婦健診に慣れた私からみるとちょっとさみしいです。日本の世界最高級の周産期死亡率の低さはこの健診制度で保たれているのでしょう、日本の皆様、安心して妊婦健診、受けてくださいね。