帝王切開瘢痕症候群の病態解明、治療、予防に取り組んでいます。

帝王切開瘢痕症候群について

帝王切開は通常、子宮峡部と言われる子宮体部と頸部との間を横に切開し、児を娩出します。すると産後にその部位に陥凹ができることがあります(青矢印)。そして、その子宮峡部創陥凹により、月経終了後に茶色の帯下が流出してくる、月経痛がひどくなってくる、なかなか妊娠しない、などの症状が出ることがあります。この病態は、現在本邦で帝王切開瘢痕症候群として知られています。

治療について

挙児希望の無い方

帝王切開瘢痕症候群の最も多い主訴は、月経終了後の茶色の帯下の流出です。ただ、その症状には個人差が大きく、流出期間が数日の方から20日程度と長期に及ぶ方まで様々おられます。これは子宮峡部創陥凹の大きさに比例することが知られています。この煩わしい症状はほとんどホルモン療法で対応が可能ですが、ホルモン療法を避けたい方や、症状が強い方は手術療法を行う方もおられます。

不妊症でお悩みの方

基本的には一般不妊治療が行われるかと思いますが、一般不妊治療が奏功しない方、明らかに子宮峡部創陥凹に液体貯留があり一般不妊治療での妊娠が期待しにくい方には手術療法を行っています。手術療法には開腹手術、子宮鏡手術、腹腔鏡手術、経腟手術など様々な手法が報告されています。当院では主に子宮鏡手術や腹腔鏡手術に取り組んでいます。どちらも内視鏡手術であり、体への負担は少なく術後3日程度で退院できます。特に低侵襲な子宮鏡手術に主軸を置いています。2022年2月までに70人の挙児希望のある方に本手術を行い、49人の方(70%)の方が妊娠に至っています。詳細は図1に示していますが、術前に生殖補助医療(assisted reproductive technology: ART)を行った方も、行っていない方も同様に妊娠に至っております。ただ、陥凹が大きく重症な方には腹腔鏡手術にて子宮峡部創陥凹を切除し修復しています。子宮鏡手術に比べて症例数は少ないですが、6割程度の方が妊娠されています。
帝王切開瘢痕症候群は子宮内膜症の合併率が高いことも我々の臨床データから明らかとなっています。そこで、子宮鏡による手術を行う際も、子宮内膜症を治療するために腹腔鏡を併用します。また、腹腔鏡手術にて陥凹部を切除する際にも、陥凹部を同定し、さらに子宮峡部側壁後壁を焼灼するために子宮鏡を使用します。つまり、当院の手術療法ではいずれにせよ2つの内視鏡を同時に使用することが特徴です。それにより術後の高い妊娠率を有していると考えています。