教室員の風景

2012年8月

医局長の木村です。今回は、産科リスクスコアの話をしたいと思います。めでたく妊娠された場合の一つ目の大きな仕事は産院選びです。産院選びは、特にこれといった問題がない人は自分の好みの産院、病院で出産しても問題ないと考えます。しかし、そうでない妊婦さんがいらっしゃるのも事実です。ハイリスク妊婦といわれる人たちです。妊娠した女性が健康に10ヶ月間をすごし健康な赤ちゃんを正常に出産するとイメージされる方が多いと思いますが、なんらかの要素のために妊娠中や分娩中に異常を起こしやすい妊娠をハイリスク妊娠、妊婦さんをハイリスク妊婦と呼びます。ハイリスク妊婦となる要素には、下の図のように患者背景、母親の体質や合併症、過去の妊娠・出産異常、今回の妊娠中におこった異常などさまざまなものがあります。

患者背景喫煙、年令、身長など
体質・合併症肥満、高血圧、糖尿病、腎炎、心疾患、血液疾患、子宮筋種や子宮奇形、抗リン脂質抗体症候群など
過去の妊娠・出産の
異常
流・早産、死産、児の奇形・染色体異常、帝王切開分娩の既往、分娩時多量出血など
今回妊娠中の異常切迫流早産、過剰な体重増加、多胎妊娠、羊水量の異常、胎児発育異常、予定日超過など

これらの因子をもつ女性や妊娠中に異常が発生した妊婦は、よりいっそうの注意深く妊娠管理をおこなう必要があります。また状況によっては、最も母児への負担がたかまる分娩周辺期の管理については、種々の異常に迅速に対応できる機能を持った病院で母児管理が求められると考えられます。
妊娠管理、分娩管理をどの病院で行えばよいかを判定をするために欧米では以前から妊娠リスクを測る基準が作られてきました。日本でも2005年4月に厚生労働省の研究班が初めてその試案が作成しました。妊娠リスクスコアといわれるものです。この妊娠リスクスコアではリスクを点数化するために妊婦さん自身が項目にチェックをつけていきます。チェックごとに点数が決まっておりそれらを総計し、総点数によって妊婦を「高リスクグループ」「中リスクグループ」「低リスクグループ」の三つに分けるのです。高リスクの妊婦さんはハイリスク妊娠に対応可能な大きな病院の出産がすすめられています。具体的には、大学病院、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センターなどです。中リスクグループはハイリスク妊娠 に対応可能な病院と密接に連携している施設での妊婦健診、出産がすすめられます。一般的な病院の産科や常勤の医師が複数いるような大きめの診療所などもここに入るでしょう。低リスクグループの人は危険性が低い人なので、医師1人の診療所でも出産できると判断します。助産院や自宅出産もここに含まれます。
妊娠リスクスコアは本サイト内でも算出できますのでトップページで検索してみてください。

さて、滋賀医大産婦人科では数多くの高リスク妊婦が分娩されています。母体合併症を持たれ内科など他の科と連携がとる必要がある妊婦さんや妊娠中に発生した合併症のために妊娠の途中で紹介されてくる妊婦さんが非常に多いと言えます。その一方で、低リスク群の方も多く分娩されていますが、それらの方にお話を聞くと多くの医師が在籍し安心と考えておられる方が多いと思われます。滋賀医大産婦人科においては産科を専門とするスタッフは医局に6名在籍しており、彼らを中心に全員が協力して、より高度な医療と安全性を追求した産科診療を行っているのです。