教室員の風景

2020年4月

アメリカ研究留学記

平成17年卒の高橋顕雅です。ここに登場するのは4回目でしょうか。最多出場のような気もします。それだけ長く大学に関わっているということだと思います。当教室ではほとんど海外留学をしている人がいなかったのですが、木村准教授、辻講師に続き、留学させてもらっています。
今年の1月からアメリカ合衆国ミネソタ州にあるHormel Instituteというところで基礎研究留学をしており、現在3ヶ月が経過しようとしています。ほとんど臨床しかしてこなかった中で、突然、基礎研究をやり出すということに勝手にとまどいを感じながらも充実した日々を送っていました。が、現在は世界的に新型コロナウイルスが蔓延しており、アメリカも例外ではなく、施設は閉鎖されており、自宅でpaper workにいそしんでおります。大変な時に来てしまったなと思う反面、訳もわからず進んでいた研究を落ち着いて勉強する時間がとれたことと、ある意味アメリカのダイナミックさを肌で感じる機会がもててありがたく思っています。
Hormel Instituteはミネソタ大学に附属するがんの基礎研究施設になります。1942年に設立ということで75年程度経過しているアメリカではまあまあの歴史ある施設です。また、世界の富豪が治療にこぞって訪れるMayo clinicともpartnershipを結んでおり、研究のコラボレーションも盛んに行われています。ミネソタ大学は州都であるセントポールとミネアポリスにまたがって位置しているのですが、Hormel Instituteは、そこから南に100マイル程度行ったところのAustinという片田舎にあります。車で約2時間程度かかります。また、Mayo clinicのあるRochesterからも60マイルぐらい離れていて車で40分程度かかります。日本人とすると都会まで遠いから過疎地という感覚になると思うのですが、こちらの感覚ではどちらも近い!という感覚のようです。
実験室は、各Principle Investigatorのもとにそれぞれlabがあり、大きなlabには30人ぐらいポスドクがいるところもあれば、1人のところもあったりでまちまちのようです。私がお世話になっているlabはPIとインド人が2人と日本人が1人。3月からはスペイン人が1人来る予定でしたが、施設自体が閉鎖してしまい、まだ会ったことがないという構成になっています。全体を見ると、ほとんど中国人とインド人という感じで、たまに、韓国人、ベトナム人、パキスタン人、そしてアメリカ人という感じです。日本人は自分を含めて2人です。ちなみにこのAustinという町にも2人です。実験をしていて、中国人、インド人の強さというものをいつも感じており、アメリカで成功して、こちらで就職口を探そう、あるいはいいJournalに論文を載せて母国でポストを獲得しようという気概を感じます。そのような中で実験をさせてもらえるのは非常に刺激的で毎日の活力になっているところがあります。
研究で必要なことはビジョンとお金です。研究内容は、詳しくは言えませんが、プラチナ抵抗性卵巣癌の薬剤耐性機構について研究しています。世界的に、婦人科癌での研究はこの領域が盛んに行われており、その枝葉をしている状態になります。お金に関しては、それぞれの地位で応募できるgrantが日本とは比べものにならないほどあり、1000万円単位であるという規模の違いに驚いています。その中でもNIHのgrantは、額が大きいですが、競争率が高く6-9%程度の採択率とのことです。また、寄付文化が根付いていることから寄付によるgrantが多数あり、grantに応募するのも仕事になります。かく言う私も、せっせとgrantに応募して、labに貢献できるようがんばっている次第です。
少し長くなりましたが、研究だけに専念できる環境が得られることが研究留学の魅力になると思います。資金面の心配もありますが、1、2年と考えるとなんとかなるもので、しっかり打ち込むことで、視野も広がり、臨床面での効果も期待できるのではないかと思っています。初期臨床研修制度が始まり、専門医志向が強くなっていると思いますが、臨床生活を少し中断しても悪くないかなと思える経験をさせてもらっています。専門医取得だけを目標にせず、研究留学も目標としてみてはいかがでしょうか?
生活のことについてはまた今度ということで。