1.帝王切開子宮瘢痕症(旧称:帝王切開瘢痕症候群)

帝王切開は一般的に子宮峡部(子宮体部と子宮頸部の間)を横に切開し赤ちゃんを娩出しますが、帝王切開後にこの部位にへこみ(右図、青矢印)ができることがあります。これは子宮峡部創陥凹(しきゅうきょうぶそうかんおう)と呼ばれ、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
「妊娠したいのになかなかできない。」
「生理が終わった後、出血や茶色いおりものがダラダラ続く。」
「生理痛がひどくなってきた。」
これらは典型的な症状です。もし帝王切開後にこのような症状があったら、それは帝王切開子宮瘢痕症かもしれません。
この病態は以前は帝王切開瘢痕症候群として知られていましたが、2023年に国際的にCesarean scar disorder (CSDi)として扱うこととなったため、それに相当する日本語訳:帝王切開子宮瘢痕症として認知されてきています。
2.治療について
妊娠の希望の無い方
帝王切開子宮瘢痕症の方の最も多い主訴は、月経終了後の茶色のおりものです。期間は数日程度の方もあれば数週間程度続く方もいます。また、進行すると月経時の下腹部痛が強くなったり、月経ではない時期に骨盤痛が出現したりすることもあり、生活の質の低下を招きます。これらの症状のほとんどはホルモン剤による治療で対応が可能ですが、ホルモン療法を避けたい方や、症状が強い方は手術療法も選択肢となります。
不妊症でお悩みの方
帝王切開子宮瘢痕症は不妊症の原因の一つで、手術によって妊孕能(にんようのう:妊娠する力)を上げることができます。帝王切開子宮瘢痕症に対する手術は「子宮瘢痕部修復術」といい、開腹手術、子宮鏡手術、腹腔鏡手術、経腟手術など様々な術式が報告されています。当院では主に子宮鏡手術(図1)や腹腔鏡手術(図2)に取り組んでいます。子宮鏡手術では、へこみを一部削って、子宮峡部全体を焼灼します。腹腔鏡手術では、へこみをくり抜いて、糸で縫合し修復を行います。

図1:当院における子宮鏡下修復術の実際(許可を得て掲載)

図2:当院における腹腔鏡下修復術の実際(許可を得て掲載)
図3:当院における続発性不妊症に対する治療方針
当院の子宮瘢痕部修復術(子宮鏡と腹腔鏡の併用)
帝王切開子宮瘢痕症に対して手術が必要な患者さんは、子宮内膜症(妊孕能低下の原因の一つ)の合併率が高いことも我々のデータから明らかとなっています。骨盤の中の子宮内膜症は子宮鏡では診断や治療ができません。そこで、当院では子宮鏡で子宮瘢痕部修復術を行う際に腹腔鏡を併用し、子宮内膜症がある場合には同時に治療をしています。
また、腹腔鏡で子宮瘢痕部修復術を行う際にも、へこみの範囲を調べるのに子宮鏡を使用します。つまり、当院の手術療法ではいずれにせよ子宮鏡と腹腔鏡の2つの内視鏡を同時に使用します。
3.治療実績について
2022年2月までに70人の挙児希望のある方に本手術を行い、49人の方(70%)の方が妊娠に至っています。術前に生殖補助医療(assisted reproductive technology: ART)を行った方も、行っていない方も同様に妊娠に至っております(図4)。より重症な方を対象とする腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術は子宮鏡手術に比べて症例数は少ないですが、術後6割程度の方が妊娠されています。

図4:挙児希望を主訴とする帝王切開子宮瘢痕症に対する当院における子宮鏡手術の成績
Tsuji et al. J Minim Invasive Gynecol. 2023より引用し改編)
3.帝王切開子宮瘢痕症専門外来について
当院では2014年に帝王切開子宮瘢痕症の病態の解明や治療に着手し、2019年に日本初の帝王切開子宮瘢痕症専門外来を立ち上げました。近年では予防法に関する研究もしています。専門外来では帝王切開子宮瘢痕症に関する相談・精査・治療を行っています。手術件数は子宮鏡と腹腔鏡をあわせて年間30~40ほどで、これまでに200例以上の手術経験があります。
当院を受診される患者さんは半数以上が県外の方です。関西圏外などの遠方の方の診察や治療も行っています(図5)。本疾患に精通した医師が専門外来で対応いたしますので、お気軽にご相談ください。

図5: 当院で子宮瘢痕部修復術を受けられた方の居住地
当院では本邦初の専門外来を2019年から立ち上げましたが、本疾患の病態解明や治療については2014年から開始し、近年では予防法に関する研究も行っております。専門外来ではホルモン療法も行っておりますが、腹腔鏡手術や子宮鏡手術といった手術加療は現在年間30例程度行っております(図4)。また患者さんは県外の方が半数以上を占め、関西圏外などの遠方の患者さんも加療されておられます(表1)。本疾患に精通した医師が専門外来で対応いたしますので、お気軽にご相談ください。
表1: 手術加療患者さん居住地別実績(2014~2024)
| 県内 | – | 75 |
|---|---|---|
| 県外 | 関西圏 | 105 |
| 関西圏外 | 20 | |
| 国外 | – | 1 |